トップページ > 角突きのミカタ > 2008年4月 シンポジウムリレートーク − 菅豊氏

シンポジウム小千谷闘牛の振興を考える − リレートーク

菅豊氏(東京大学) − 研究者から牛持ちになって見えてくること

菅豊氏(東京 大学) | 鎌田豊成氏(長岡造形大学) | カルメン・ハンナ氏(新潟大学) |
| 片岡哲太郎氏×平澤健光氏(小千谷闘牛振興協議会) |

偶然的に牛を飼う − 東山の人々とのつきあいの中から

司会: さあ、それではトップバッターのほうをお招きしましょう。東京大学教授で民俗学が専門の研究者でありながら、小千谷闘牛に魅せられてご自身も角突き牛・天神号を飼いまして、勢子としてもデビューを果たしました菅豊さんです。
会 場: 先生、一杯呑まねぇと喋れねえんじゃねえか(笑)
菅: ちょっとお酒入ったほうが良いかな(笑)
司 会: そうかもしれませんね(笑)。さて、地元の方に牛の話を訪ねるときの菅先生の表情に驚いたんですけど、民俗学を研究して い て、この闘牛に出会って・・・牛を飼おう、ってなったのは何故なんですか?
菅: これは完全に偶然なんですけども。よく「なんで闘牛を飼ったんですか?」って聞かれるんです。やっぱり、東山と長く付き 合ってきて、最初はもちろん見てるだけ、もちろん、外から見てるんですね。で、外から見ているだけでも結構面白い。最初はわからないところからスタートし て、だんだんと色々な人から話を聞いてくると、とても面白くなってくるんですね。で、そのうち中に入りたくなってくる。そして、中に入ると、また、見方が 変わってくる。で、中に入らなければ、わからないこともあって。そうすると今度は牛が欲しくなってくる(笑)。やっぱりあの、牛を持たないとわからないこ とがあって・・・ただその、牛を飼って自分の学問のためにこうわかるようにしよう、というのではなくて、なんとなくこう・・・付き合いながら、そうなって いたと。ここの東山とか、まあ小千谷の人達がですね、牛を飼っているというのは結局同じこと・・・要するに角突きを見ていると、牛がほしくなる。で、欲しいだけじゃ飼えませんから、その、牛を一緒に飼ってくれる人、そういう人たちが出来て・・・偶然的に飼ったと。必然的では必ずしもなかった。
司 会: で、牛を飼ってみて・・・偶然なんだけれども研究に生きることが多いんですか?
菅: そうですね。結果として生きるということが非常にあってですね。例えば、あの、やってみなきゃわからないことが当然ある わけですね。えー、アッパ掻き(牛舎のフン掃除)とかですね。ああいうのは私全然厭わないというか、あの、アッパが落ちている村は良い村だと主張している んですけども(笑)。まあ、住んでいる方からみれば迷惑な部分もあると思うんですけども(笑)。ああいうものをやってみて・・・アッパって言うのは温度が 上がってきてあったまるとかですね・・・何より一番学んだのは、牛に突かれると痛い(笑)。私も突かれまして・・・ほんとに痛いんですよ、アレ(笑)。 やっぱり身をもって、文章にするときに、単純に痛いじゃない、どう痛いのか、それがわかるんですね(笑)。

天神のアッパ掻き

「人と動物の関係史」から − 土俵の中から見た角突き

司 会: (笑)ほかにも民俗学者としていろんなフィールドで研究されているわけですよね。そういうなかで見て、角突きってい うのは特別に何かありますか?
菅: 私も別に闘牛だけの専門家ではなくて、いろんなところを「人と動物の関係史」という形で調べてきたわけです。沖縄の闘牛 とかも見たことがあるんですけど、明らかにこっちの闘牛とは違うわけですね。まあ、何が違うかっていうと、皆さんご存知のとおり、非常に様式美として出来 上がってますけど、いわゆる途中で引き分ける。戦わせるっていうことは、勝負をつける、っていうのが本来のあり方で、まあ、そこに博打とか様々なみんなの 思いがこもっているんですけども、それを付けずに、途中では分けてしまう。これはれは世界的に見ても非常に変わっている。普通なら勝ち負けを付ける。角突 きはそれを付けないので、普通なら「それだと面白くない」という方向に行くはずなんですが、実は引き分けの背後に、それ以上の人々の深い理解がある。ま あ、地元の人の話に耳を傾けてみると、実際はどちらの牛が強いのかを理解したり、あるいは、良い戦いのときは両方勝ちになったりしますし(笑)。私も昔面 白かったのは、いい戦いのときに両方の牛の持ち主が「今日は良い勝負だった」「今日はうちの牛が勝った」って(笑)。
司 会: 最初はそのようにご覧になっていて、自分で飼い始めて、飼い始めたら見方もまた変わってくるということですよね。
菅: そうですね。こればっかりは土俵の中に入らないとわからない。土俵の外から見えることが当然あるんですが、中に入るとま たぜんぜん違うことが見える。例えば、角突きには本当の意味で人間が参加している、角突きっていうのは牛だけの戦いじゃないんですね。沖縄だと勢子が一名 一名出て勢子をやる、勢子が順番に交代するんですけども、角突きの勢子っていうのは基本的には外を大きく取り囲んで、そしてみんなで囃したてる。明らかに 闘牛のなかに勢子が入っている。角突きは勢子なしでは絶対に考えられない。そういうことがわかってくるんです。

土俵の中で学ぶことは多い

「ざまったれ!」と呼ばれて − 牛との格闘の日々

司 会: 勢子デビューも果たしたわけですよね?
菅: 勢子デビューは一昨年果たしたというか・・・入れていただいたというか(笑)。最初はですね、やっぱり皆さん優しいん で、最初どんどん「勢子に出ろよ出ろよ」って、ずっと前から言っていただいていたんですが、やっぱりそう簡単に・・・あの神聖なる土俵というか、本物の場 所には入れない。で、ずっと遠慮していたんですけども、やっぱりこう・・・こうしていくなかで、ほんとに自然と中に入れてもらって、中に入っていって、最 初は後ろのほうで、勢子をやっていたんですけども。「よしたー」っていう声を最初出す時・・・あれがまず緊張するんで(笑)。もう「よしたー」を鏡の前 で、「よした50回練習」をして(笑)。
司 会: 今もその「よした」のトレーニングをやっているんですか(笑)?
菅: 今は牛を引くトレーニングを主にやっています(笑)。昨日もあのスポーツセンターのトレーニングジムに行ったんですけど も・・・あの、 角突き前には体をちょっと作っておかないと(笑)。そこで一分間全力で走れるくらい。私の牛は外に出ると走っちゃうんで(笑)。
司 会: それだけ、牛とホントに一緒に動くということは大変なことなんですね。
菅: 私の場合、参加させてもらって日も浅いですし、やっぱり普通の勢子ってのは、小さいときから、それこそ小学生の頃から牛 を引いているんですね。勢子長の平澤隆一君なんかそうですけど、その息子の大成君もまたお父さんに連れられて、牛のところに行っているわけですよ。今日も 今から話を頂く哲太郎さんの大家のところ。そこの息子さんたちも今は大きくなって勢子の中心的なメンバーになっていますけど、本当に小さい頃からお父さん と一緒に牛を引いて、朝日の方から闘牛場まで引いてくる・・・そうすると身体にもう染み付いているんですね。恐怖感もないし、逆に疲れる点も知っているだ ろうし。それが私みたいなのになると、思いっきり無駄な力だらけ(笑)。牛も引かれて、不機嫌っていうか、牛のほうがやっぱり私よりも上。やっぱり慣れて いる人たちは牛より上、堂々としている。それはやっぱり、明らかに私はまだまだな無理な部分があって。もうそれでもやっぱり毎日世話して、牛を引いて、牛 に慣れるということに関しては・・・(笑)
司 会: 月に一度も来ているのに(笑)。毎日牛の世話をして、犬の散歩じゃなくて、牛の散歩をする地域なんてめったに無いですよ ね。
菅: 月に一度じゃダメなんですよ(笑)。私も牛を引いて、この前も引いて・・・久しぶりに今年の初めに来たときは体力が全然 無くて、牛を引かなかったら、皆から「ざまったれ」みたいな(笑)。で、先々週引いてたんですよ。そしたら、それも見た他の牛飼いが、家の中から飛び出し てきて、「先生、牛引いてんだぁ〜(笑)」とか言われて。まあ、こうやってからかわれるのも実は最高の楽しみになってきているんですね(笑)
司 会: まあ、肩書きでいうと、東京大学の教授ですよね(笑)
菅: ここでは全く関係ない(笑)ここではもうほんとに、皆に「ざまったれ!」って言われています(笑)

意外と大変な牛の散歩

角突きから地域を考える − 角突きのこれから

司 会: こうして外部から、いままでこの小千谷という土地とも、牛とも闘牛ともかかわりが無い中で、毎週のように通って、小千谷 闘牛に魅せられて、牛を飼ってしまったというわけなんですが・・・これから小千谷闘牛がもっともっと皆に見にきていただきたい、盛り上げて行きたい、って いうものにするにはどうしたら良いでしょうか。
菅: うーん、これは非常に難しい問題なんですね。まあ、いろんな方法、宣伝とか観光とか基盤整備とかいろんな方法があると思 うんですが・・・今日も小千谷闘牛の振興を考えるということなんですけども、角突きっていうのは単なる資源ではなくて、土地と深く結びついている。地域と 不 可分なものなんですね。要するに、小千谷がなければ角突きは無い、地域に本当に根ざしているものなので。その意味では、角突きを振興させるには、実は小千 谷を 振興させなければいけない。だから大きな目標っていうのは、東山の事を考えることが、角突きの事を考えることに繋がるということなんですね。角突きも凄く 良い状況で、老 壮青のほんとに良い年寄りから若いやつまでが一つに揃ってて。私もいろんなフィールドを見てきていますけども、若い子が村の中にいないんですね。ところ が、東山の中にはほんと若い子が残っている・・・これは今後そういう形で若い子が再生産されてゆくかって言うと、まあ、結構難しくて。まあ、東山の小学校 の生徒がどんどん増えるような状況でないと、実は角突きは続いていかないんですね。ですから、闘牛を全国的に発信していくっていうこととともに、まずは地 域 の問題として角突きを考えつつ、角突きを考えることから地域を考える、そういう姿勢が一番たぶんこれから大事だと思いますね。

角突きを語る菅豊氏

人々の繋がりを生み出す角突き − 角突きを教える際のポイント

司 会: 授業でも学生さんに闘牛のことを教えてらっしゃるんですか? 授業の感想などはいかがですか?。
菅: ええ、去年・・・私の授業は闘牛で。私の持ってきた天神のビデオばっかり見せてですね(笑)。ほかのビデオを見せるわけ ではない(笑)。でも、非常に喜んでみてくれてます。見てて非常に面白いですから。ただ、授業で言うのは、ただ単なる表面上の動物と動物の戦いではなく て、背景にどんな人間関係があるとか、社会の仕組みとか・・・社会っていうのは角突きを支える人たちは色々な役割を担っているわけですね。・・・それこ そ、闘牛をやる人、牛を飼う人、それだけじゃなくて、監物さんのように解説をする人。監物さんの解説がないとかなり闘牛が盛り上がりに欠けたりするわけで すよね。それだけじゃなくて、よく女性が関わらない、って言われますけど、闘牛は実は女性がいないとダメですね。掃除をしてくれたり、受付をしてくれた り、文字を書いてくれたりですね・・・そういう、背後に物凄い多くの人たちが関わってくれている。ですから学生に教えるときには、実はこういう文化って言 うのは、表面的な牛の戦いだけではなくて、どういうふうに牛が実際の日常社会に入り込んでいて、ほんとに普通の生活のときに牛をめぐる人間関係が生きてい るか、そういうことに注目させるような話をしますね。例えば、牛と歩きながら、夕方になると、いつのまにか人が集まって来てて、年寄りから若い人から会っ て、お爺ちゃんが若い人に携帯で「牛持って来い、今何処にいるんだ?」電話して・・・そういうような社会。つまり、ほかのところにはありえないそういう繋 がりを闘牛が生み出していることを理解して欲しい。そういう形でいつも学生に教えています。
司 会: ではその学生が7月に来てくれると。楽しみですね。一人でも多く来てくれることを願って・・・じゃあ、あの先生、天神のPRを(笑)
菅: あのー・・・七月の天神の第一戦目に家康と戦わせていただいて、天神は一度後ろを向いてしまったんですが、前を向いて突 きなおしたときには、「ああ。こんな良い牛はいない」と不覚にも涙を流してしまいましたけども・・・。今年もさらに若牛がどんどんどんどん出てきます。 で、牛の発展というのはさっきいったように地域の発展に繋がる・・・でも、牛というのは単純な一つの文化財とか観光資源とかそういう位置づけではなくて、 一つの大きな社会的な価値としてみる。で、今後そういう発展につなげていくと、地域の生活を発展させてゆく原動力に繋がると思いますので、ますますこれが 発展すること、私も努力していきたいと思いますし、是非、一緒に楽しんで考えて行きたいですね。
司 会: そうですね。よく繋がりが大事って言いますけども、牛を飼うっていうことから、もうほんといろんな人と繋がっていること が直接感じられていくわけですね。
菅: そもそも人の繋がりが無いところに牛は飼えないんです。私が大金持ちでも、東山の人に「お前牛を飼ってくれ」っていきな り言ってもね・・・それはホント人の繋がりが無いと無理なんです。
司 会: はい。これからもよろしくお願いいたします。東京大学教授の菅豊さんでした。ありがとうございました。

(聞き手:小野沢裕子 / 編集:渡邉敬逸)

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